失恋と、ネコパンチ

17歳の秋。わたしは死ぬほど浮かれていた。

初めての「彼女」の称号を得たのである!

小学生時代から、好きな人にはストレートに好きだと伝えていたが、いっこうに成就することはなく
橋の上から川に向かって「彼氏ほしーーーーーー!!!」と叫んだあの日の夢がついに叶うことになったのだ!

20年以上前、当時KONAMI筆頭に、音楽ゲームがものすごく盛り上がっていた時代。
beatmania、Dance Dance Revolutionなど、40代の人はよくご存じかと思う。

当然、ゲーセンに入り浸っていた私は、その仲間のひとりにハートを一方的にハートを撃ち抜かれていた。彼は撃ち抜いたつもりは一切なかっただろうに。

そんな2つ上の彼にある日「付き合う?」と聞かれたので、食い気味に「付き合う!!!!」と答えた。
好きだ、と言われたわけではない。でも、わたしは彼が好きだったので「付き合う=彼もわたしが好き」と自動変換していたのだ。

すべてをポジティブ変換。わたしの持ち味である。

両親が与えてくれたそこそこシワの入った脳みそは、あっというまにシワがなくなり
ツルツルになり、フワフワの白いマシュマロになった。中身はもちろん甘〜いピンクのストロベリーチョコレート♡

会う場所は、ゲーセンか、彼の家(実家)。ごはんは吉野家。たまにファミレス。
ぜんぜんよかった。100点だった。だって彼が隣にいるんだもん♪

・・・と、わたしは思っていたのだが。


付き合うということになり、3週間過ぎた頃。
彼はなぜだか、ツレない発言を連発するようになっていった。

「お前はデブだから、痩せなきゃ別れる。」
そんな‼︎!わかった、頑張るね!と、せっせとダイエットした。

修学旅行に行ったときも、彼が喜んでくれそうなお土産を一生懸命探した。
もう修学旅行のメインと言ってもいい。彼へのプレゼント選び。

大都会、東京。おしゃれな街、東京。
ふと、目に入ったパーカー。なにこれかわいい。
「A BATHING APEっていうブランドなんです。最近、服好きな方の中でもとても人気なんですよ」

へえ!ゴリラ?とにかくなんかオシャレ!お店の人も超オシャレ!こんなオシャレなお店のパーカー、
きっと喜んでくれるに違いない‼︎‼︎たしか1万円くらい。高校生のわたしにとって、ものすごく高い金額だった。しかし、臆せずバイト代をブッこんだ。

修学旅行から帰ると、まったく連絡をくれない彼に、「お土産があるから」とエサを撒き
会うことになった。

「これっ、お土産!!!」死ぬほどホクホク顔で渡したに違いない。
選んで楽しい、買って楽しい、渡して楽しい、喜んでくれたらわたしも喜ぶ!!!!



「・・・なにこれ?ゴリラ?ダッセー絶対着ねえょこんなもん」

ポイッ・・・部屋の隅にぐちゃぐちゃに投げ捨てられてしまった・・・。


全国のエイプファンの皆さん、怒っていいですよ!笑

それでも好きだった。素直に好きだと手を回して甘えた。そしてその手を払われた。

メールしても無視されて、ゲーセンに行ったら彼はいる。楽しそうだ。
「メール見てなかった〜」が常套句。

呼ばれたら飛んでいった。普段、ツレない態度なのに、なぜか身体だけは求められる。
そういう時の彼は上機嫌で誘ってくる。

わたしのアタマは「???」でいっぱいになってきた。
なんで普段は冷たいのにそういう行為だけはしたいのだ!?

愛しあっているから?
愛しあっているのか?

たった1ヶ月半くらいで、ふたりで会ってもくれなくなった。

大好きなのに。「会える」と「会えない」のはざま。
「会えるかもしれない」これがいちばんキツい。

期待しては、会えなくて。会えると思ったら会えなくて。
会えると期待した分、会えなかった時は地面に叩きつけられたような絶望だった。

1ヶ月くらい放置され、その日は来た。忘れもしない12月23日。

13時に駅で待ってて。迎えにいくから。メールがあったのだ。
喜び勇んで、オシャレもして、化粧もして、髪もツヤツヤにして、指定された駅で待っていた。
無人駅。雪が猛吹雪。

はりきりすぎて、12時半についてしまった。寒いけど、わくわく。
待っている、このドキドキ感。待ってるだけで楽しいわ!

13時。彼は現れない・・・。どうしたんだろう?
14時。こない・・・
15時。こない・・・
16時。こない・・・


寒くて死にそう。手も足も顔も全部冷え切ってもげそう。

電話がきた。彼からだ!「ごめん。今日いけない。親父が調子悪くて・・・」

えっ!?お父さんが!?
お父さんとは、彼に紹介されて一緒に朝ごはんも食べたことがあったくらいなので
すっかり心配になってしまった。

「明日は必ず行くから。13時ね、待ってて」

骨の髄まで冷え切った体でなんとか帰宅。
そんななのに、明日会える希望に燃えていた。

さてクリスマスイブ!!!24日。イブに会えるなんて、超うれしーーーー!!!

13時。昨日と同じ駅。
クリスマスイブだから、昨日よりメイクに気合いが入っている。髪もトリートメント済みだ!

またはりきりすぎて12時半についてしまった。ワクワクドキドキ!!!!
今日も今日とて猛吹雪だ!!!!

13時になった。
まあ、10〜15分は誤差かもだから。

14時。こない。
15時。こない。
16時。こない。

ま、まさか・・・そんな・・・
さすがのわたしでも、いきなり悲しくなってきた。
骨の髄まで冷え切っている。今日も。首が取れそうだ。足も指もポロッと逝きそうだ。
寒くて震えがとまらん。

彼と、わたしの共通の友人がいた。もう成人しているので、わたしからみたらものすごくオトナに感じていた人だ。

その兄貴に電話してみる・・・「彼がね、13時に約束してたけど、こないの」

「え?今日!?ちょっと電話折りかえすから待ってて」

・・・待っていた。携帯を握る手が寒さでチカラが入らず、今にも落としそうだ。


すぐに折り返しきたので、震える指でなんとか出た。

「・・・おまえな、今日はもう帰れ。あいつ夜中じゅう麻雀してて、今日は無理だって・・・」

ま、まーじゃん・・・思わずひらがなになった。
お父さんは・・・・?

いろんなことが頭に浮かんだが、もう考える余地もないくらい冷え切っていた。
とにかく震えながら、また汽車に乗って帰ったのだ・・・。

25日。クリスマス。

・・・もうなにも約束していない。クリスマスなのに・・・。

さすがに落ち込んでいた。もう全く元気がでない。
今までどうやって元気だったんだろう・・・

と、思ったら連絡がきたのだ!!!
飛び跳ねた。おとついと、昨日のことは忘れた。今日、会おうと!!!

おとついと、昨日の冷え切った地獄は今日の天国のためにあったのかもしれん。

慌ててオシャレして、化粧もして、髪のきちんとブローして、彼の家に行った。


彼の家に到着すると、なにやら雰囲気がおかしいのだ。

ふたりきり。なんとなく空気が重い・・・クリスマスの雰囲気ゼロどころかマイナス。

「別れよう」

え?なんで?やだやだやだやだ
なんで?なんでそんなこと言うの?

彼は、横にゴロンと横になった。ダルそうに。
わたしも彼に寄り添うように横になった。

「やだよ、別れたくない・・・好きだもん」
「ごめん。親父が別れろっていうから」
「え?なんでお父さんが?あんな一緒に楽しくご飯食べてたじゃん」
「とにかく、無理だから。別れる。」
「やだやだ、別れたくない!」

と、押し問答になった。くっつきたがるわたしと、離そうとする彼。

抱きつこうとしては、その手を払われて、ジタバタしていた。

すると、部屋の隅から今まで静かに丸まっていた
ちょっとお太めなアメリカンショートヘアーの「タマ」が

バリィ!!!!!

!??!!!??

タ、タマ・・・

タマ・・・・

いってええええ!めっちゃ血ぃでてる!!!!え?どうなってんのコレ
かがみ、かがみ見たい・・・いてえ・・・

タマはフーーーーーッと怒って去っていった。

彼は「もうタクシー呼んだから。帰れ。」

「え?やだ!なんで?まだ話終わってないよ」

「もう終わったの!!!ほらきたよ、帰って帰って!!!」

デコから鼻のアタマを通り唇の上まで赤の3本の線が引いてある血だらけの女。

クリスマスだから赤なの?どうなの?え?スカートが緑だから合ってるって?

ビビるタクシーの運ちゃんは、運ぶのが仕事なので、わたしを運んだ。

・・・・タマ・・・

飼い主である、彼を守ったんだね。
わたしと押し問答してるから。彼をいじめてると思ったんだね。
だから、彼を助けなきゃと思ったんだ、わたしから・・・。

自宅に帰って、はたして母はなんていったんだろう、まったく覚えていない。


とにかく、3本線が刻まれたとて、わたしは納得していなかった。
一方的に別れようって言われただけで・・・なんで?


泣きたいけど、自分の部屋がないから決して母や妹の前では泣けない。涙を見られなくなかった。
だから、そういう時はお風呂に浸かって、こっそり涙を流した。

世の中はクリスマスが終わり、今度はお正月に気持ちがむかっている。

わたしの家族は、母の田舎に帰るという。とうぜん、高校生のわたしも呼ばれたのが、
わたしは万が一の「会えるかもしれない」に賭けていた。だって学校も、彼の仕事も休みだし。
そのため、たったひとりで自宅待機を申し出た。

たった1人の年越し。12月31日。母も父も妹もいなくて、静まり返っている。
よく考えたら、正月ひとりぼっちは初めてだわ。でもそれでよかった。

だって、わたしは、今年最後の電話を彼にかけるのだから!!!!
地獄のクリスマスから約1週間たったし、タマの一撃はかさぶたになったし、
「別れよう」の案件も寝かせたし、ちょっと冷静に話せるかもしれない。

なにはともあれ、とにかく声が聞きたい。

・・・トゥルルルルル・・・・・

かかった!着拒されてなかった!!!これは、まだ完全に拒否されてない?

ドキドキドキドキ・・・

「・・・もしもし?」

で、でた彼だ・・・彼の声だ。

「ぬんぬんだけど・・・もう一回会いたいよ」

彼は一呼吸した。たぶん、息を吸い込んでたんだと思う。

「し・つ・こ・いッッッ!!!!!!」

ガシャン!!!ツー・ツー・ツー・・・・・

腹から出た声だった。

わたしは、静まり返った部屋でたったひとり、誰にも遠慮することなく大声で泣いた。

気づいたら、年も越えていた。

たったひとりのハッピーニューイヤー

タマが気づいたら空中の顔面前にいたこと、一生忘れない。

したっけね!(*´︶`*)ノ”

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