さんぶんのいちの純情な感情 その2

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中学生と大学生の壁

ホワイトデーがあっさり過ぎていった。

リフレインする記憶の色が少しづつ薄くなっていく。


電話しよう。そして確かめよう。
この頃、スマホは当然として、携帯電話やPHS(ピッチ)すら持っていなかった。
自宅からではなく公衆電話からかけていたから、家電からではなんとなく気恥ずかしかったのだろうと推測する。


「もしもし」
「あッ・・・・ぬんぬんです」

他愛もない会話をしたと思う。中学生から持ちかける他愛もない会話ってなんだろう。
全く覚えていない。


意を決して、聞いた。この前の返事を。よく切り出しなあ、わたし。


「ごめんね。嬉しいけれど、中学生とは付き合えない・・・」



中学生とは付き合えない!中学生には予想外の返事であった。
中学生のころって、「今」しかないから。
相手の立場からした自分を振り返るほど、過去も未来もなく「今」しかないから。


悲しいけど、一筋の光が差した。

「よし、高校生になるまで待って、もう一回言おう!」

我ながらポジティブである。ショックを受けつつも、まだ諦めていない。


高校にも無事受かり、念願の高校生になった。
相変わらず、公演があればせっせと通ったが、とくに距離を詰めるようなことはしていなかった。高校生になったばかりじゃ、中学生と同じ扱いになるかもしれん、と思っていた。



高校1年生の秋。
わたしの気持ちは決して冷めてはいなかった。
彼の誕生日と、わたしの誕生日は2日違いだから、その間の日に電話しよう!と決めていた。
高校生同士ですっかりカップルになっているクラスの子たちが、お互いの誕生日のちょうど中間の日をさらに祝うという、今思うと全くの謎イベントを聞きつけて、これしかないと思ったのだ!



その日はだいぶ緊張した。一回断られてるからね。
でもしょーがないよ。すごい好きなんだもん。
そして、やっぱり公衆電話なのだった。


「もしもし」

わーい!電話でてくれた!!!嬉しい!

「お誕生日おめでとう!」


と、言ったと思う。そして、自分も明日誕生日なんだって、わたしのことだから絶対言ったと思う。
しかも、今日まんなかバースデーだね!とか言ったと思う・・・絶対言った。そういうやつなんだよ、わたしは・・・。記憶にないけどさ。

「ヨウスケ(仮名)さんのこと、好きです。高校生になるまで待ってました。付き合ってください」

言いました。「高校生になるまで待った」がポイントです。


「ごめんね、恋人として付き合うことはできない」

・・・。

「付き合えない」という事実を噛み締めた。

わたしは、こういうとき、ただ事実だけを思うのだった。
自分がもっとかわいかったらとか、わたしなんかだめなんだとは思わなかった。
かといって、受け入れてくれない相手を責めることもなかった。


ただ、わたしが好きでも相手はわたしを好きではないという真実を、受け止めようとして悲しかった。
だがしかし、それはそれ。まだ諦めていなかったのである。

そんなことがあっても、公演があれば見に行き、手を振ったり、観にきたよっていう挨拶だけはしていた。


そして、数ヶ月たったとき、なんとクリスマス公演をすることが決まった。
告知を見て思った。「絶対クリスマスプレゼント渡す!」と。


純粋にプレゼントしたい気持ちと、なんとか振り向いて欲しくて、アピールしたい気持ちの下心のミックスで猛烈に盛り上がっていた。



友達と、ドーリ(札幌市の中心街)で一生懸命プレゼントを選んだ。お金は、自分のバイト代から。
親からの小遣いじゃないから、これは自分で稼いだお金だから、中学生よりはオトナになったぞと自分で奮い立たせる。


公演が近いと、毎日稽古でたくさん汗をかくだろうと思って、スポーツタオルを選んだ。
これならたくさん持っていても困らないし、使えるだろうし、いいかなって中学生ながらにアタマを働かせた。ブランドモノの方がプレゼントとしていいかもしれないと思って、adidasにした。彼のジャージがadidasだったのを思い出して。



クリスマス公演の日。準備万端。中学生じゃないのだから、メイクもした。おしゃれもしたつもり。
プレゼントも完璧にラッピングした。自分史上最高に仕上げてきた。



この日のクリスマスの公演は、内容こそおぼろげになってしまっているけど、すっごく面白かったという記憶が残っている。
彼が脚本だったのも、印象的だった。こんな面白いお話を作れるなんて最高かっこいいと思った。


楽日。最終公演が終わって劇団員さんが会場から出てくると、観にきていた人やら、関係者やらでごったがえして、すごい盛り上がりようだった。「お疲れお疲れ!」「すごい面白かったよ!」と拍手が起こって、今回の公演が大盛況だったことが一目瞭然だった。

その人だかりの真ん中に彼はいた。わたしは盛り上がる集団よりずっと離れたはじっこで、彼を見ていた。


すっごい笑顔。やりきったぞっていう達成感いっぱいの笑顔。みんなと楽しそうにハイタッチしたり肩組んだり、とびっきりの笑顔。



わたしは、両手に持っていたプレゼントを背中に隠した。

笑顔の彼の顔を見て、思った。
「わたし、きっと、これを渡したら彼を困った顔にさせる」

そう思った・・・。

あんまり嬉しそうに、楽しそうにはしゃぐ彼を見てたら
自分は彼をあんなに笑顔にはできないだろう思った。



「帰ろっか」と友達にいったら、えっ渡さないの?と、びっくりされた。
「いいんだ、これはね、自分で使うから」



大好きな人の幸せを願う気持ちが、そこにはあった。
自分の気持ちよりも。


好きだから、伝えたくて、伝えたから受け止めて欲しくて。
伝えるだけで、良かったはずなのに。途中から、自分のことばっかりになってた。

その日から、会ってない。
タオルを見ては、悲しい気持ちになっていたけど、時間が味方になってくれた。



あの日に感じた気持ちは、今も忘れていない。
小さな恋がくれた、きっと大事なこと。



時がたって、そんなことあったね!と話せるようになった頃。


タオルを渡そうと緊張しているわたしの隣にいてくれた友人がポロリ。


「いやあ、渡さなくて良かったよ!だってさあの人、ぬんぬんが来てること、気づいた瞬間にさ、
うわぁ来てるんだって顔してたもん!だからわたし、それで腹たっちゃって。でも言えなかったからさ!」



ゴーーーーーン。

きれいなままでいてほしいけど、そうはいかない我が人生。

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