憤りの着地点

同じ職場の人で、最近よく話しかけてきてくれる5歳年下の女性がいる。彼女は35歳になり、今まで全く興味がなかったメイクや、スキンケアに興味が湧いてきて、今いろんなアイテムを試しているところらしい。

わたしも10代、20代のころはファッション、メイクにはさほど興味がなく、妹や母に「服くらい買いなさい!」などど良く言われていたんだけど、キャンプや外遊び、パチンコに明け暮れていたので服やメイクは二の次だった。ススキノに飲みに行く時と、デートの時だけはキメているときもあったけど、「自分のためのワクワクすること」という位置付けではなかったと思う。ただ、ファッション誌は好きだったのでよく読んでいたくらい。これは実益というよりは、めっちゃかわいい服や、綺麗な色のコスメ、お風呂で肌を磨く特集などをみると、ふだんやってないのになぜかテンションがあがるという、「癒し本」のような役目だった。

35歳の時、常に人の目に晒される職場で働くことになって、びっくりした。なんとオシャレで綺麗な年上の女性が多いこと!!これはやばい!服を買わねばらなぬ・・・化粧もちゃんとしなきゃならぬ・・・

なかば強制的に始まったものの、どんどん楽しくなってきた。高いものは買えないけど、ドラッグストアのメイク用品や、雑誌をみては真似てみたりアイテムを買ってみたり。髪もアイロンで整えたり。

すると、職場の人から「今日の服、素敵ですね。」「肌、綺麗ですね」などと褒めてもらえることが出てきて、嬉しくてますます研究するようになる良い循環になっていった。

それを妹に話した。「好きな服を選んで着てみたり、好きな化粧品を集めてメイクするのって、めっちゃ楽しい!いまね、自分のためにやってるの!」と。

そしたら「やっと気づいたね。そうだよ、自分が楽しいから自分のためにやるんだよ。そっか〜ついに自分のためにって思うようになったか〜」と言っていた。驚きと良かったね!が含まれていた。

妹はもう高校から綺麗にしてたから、とっくに知ってたんだね〜。おねいちゃんは、デートとか飲み会とか「外にむけて」の演出としてオシャレやメイクすることは嫌いじゃなかったけど、「自分にむけて」のものはぜんぜん興味なかったんだよ。そんなことより、朝パチンコに並ぶことの方が重要だったんだよ・・・笑

そんで、話は戻るけど。35歳の職場の女性。

最近、毎日「ぬんさんは化粧水、どこの使ってますか?」「毛穴が気になるんですけど、良いアイテムありますか?」「下地は塗ったほうがいいですか?」「ファンデ買いました!」などいろいろ聞いていたり、報告してきたり。

いいね〜、わたしも開花が遅かったから、そのワクワク感わかるよお〜と思っていたのだが・・・

「ぬんさん、今日はマスカラの色、黒じゃないんですね!」というので
「そうなの〜今日は、ボルドーっぽい色にしてみたよ。」
そういや、彼女はチークもマスカラもアイラインもしているところを見たことがない。

ぬん「マスカラとかは塗らないほうが好きなの?」
彼女「いや、そういうわけじゃないんですけど・・・」
ぬん「ベースメイクのほうが興味あるのかな?」
彼女「いや、基礎がなってないのに、ポイントメイクまではいけないです。まず肌があってのポイントメイクであるべきじゃないですか。肌づくりができていないので・・・。」

アタマ、カタッ!

急に20年前の友達を思い出した。

華の女子大生(短大)だったわたしと友達。わたしはゲームに夢中の華とは程遠いオタクの中のオタクであり、彼女もまたまったく華のない地味な子であった。

卒業間近、「ね、ぬんちゃん。わたしにお化粧教えて?卒業式にしてみたいの!」というではないか。

なにそれ素敵じゃん!わかった!わたしは、持っているメイクの全アイテムと鏡台にあった母と妹のメイクアイテムをパクり、大学に持って行った。

ビューラーはこうして、マスカラをこう・・・チークはこうして・・・リップはこの色かわいいんじゃない?とか、女子っぽいキャッキャ感が超楽しかった。彼女も、メイクした自分の顔に驚き、嬉しそうだった。

さて、卒業式当日。わたしは地味なスーツ。遠くに赤がメインの花柄の袴で装った彼女がいた。
「ぬんちゃーーーん!」トコトコッと小走りで駆け寄ってくる彼女。

めっちゃ素敵な袴じゃーーん、超似合ってる!と顔をみたら、
なんと!ファンデ白すぎ!首と顔の色違いすぎ!チーク濃すぎデカすぎ!
眉毛はどこにいったーーーー!?


完全にオカメちゃんになっているではないか。

「えへへ、ありがとう!メイクもちゃんと自分でしてみたんだ。教えてくれて、本当にありがとう!」

言えるわけない。オカメちゃんなんて言えるわけない。

みんな袴でかわいかった!

でもさ、もうそんなこと、どうでもいいじゃん?
見てよ、この友達の満面の笑顔。
おうちでメイクこっそり練習したんだって。
超しあわせそうだし、超かわいいよ。

オカメなんか、ちょっとずつ直せばいいんだよ。
自分がいいじゃん!と思うように自由にやってみて、こうしたほうがいいかなって工夫しながら
今よりちょっとずつ上手になっていくんだから。
そのためにはなによりも「始めてみる、やってみる」これにつきるんだよ。
「失敗」なんてないからね。「失敗」は成功の材料であるだけ!!!

・・・アタマ、カタ!!のあと、遠い記憶の中から、この件をハッと思い出した・・・。

基礎ってあるよ、たしかにね。雑誌でも基礎のおさらいコーナーとかあるし、わたしも見るし。

でもさ、こうである「べき」って、なににおいても超つまんない。
「べき」が自分の首絞めない?
自分の「べき」が他人の首も絞めない?

ポイントメイクが映えるのは、たしかにベースの肌が整っていたら、より映えるわ。
そうなんだけどさ、そうじゃなくてもいいじゃん!なんかファンデうまく乗らなくて
でもマスカラ上手にいったワーイ!でもいいじゃん。今日肌がイケてるからリップだけにしよ、でもいいじゃん。そんな自分を狭めるなよ!自由でいいじゃねえか!

と、家にかえってきてから、そのことについてジワジワ憤っていた。
「べき論」について。その「べき論に支配されていること」について。
いつも彼女のそのアタマのカタさに、「マジメだなあ」くらいにしか思っていなかったけど、
思い返してみたら、メイクだけじゃない。彼女の旦那様のこと、仕事のこと、すべてに「べき」論が
ついて回るのが、なんか違和感を感じている原因だったのかとわかった。

それをオットに話してみたのね。

「かくかくしかじかなんだよ!アタマ、かたくね!?メイクだよ。メイクなんて、こうであるべき!よりも自分が思うように、自由にやればいいのに。」

オットはう〜ん・・・とちょっと考えて。

オット「選択肢がないんだよね。ぬんぬんは選択肢がないっていう創造性のなさにハラたつんだと思うんだけど。こうであるべきって可能性を狭めることでもあると思うから。でも、そういうタイプって案外職人気質だったり、ひとつの才能を爆発的に開花させる可能性もあると思うんだよね」

ぬん「どういうこと?!」

オット「メイクだけじゃなくって、いろんなジャンルがあると思うんだけど。ひとつのある事柄に対して、基礎をつきつめて学ぶことって、そのあとに出てくる応用の礎となるものだからさ。もしかしたら、メイクは違うかもしれないけど、なにかこれだ!ってものを見つけた時に、基礎から徹底的に学んで頂点を極めるような、そういう可能性も秘めてるんじゃないかなって。思い込みがうまく働いた、みたいな。そういう一面があるんじゃないかって俺は思うよ。」

な、なるほど!そういう見方もあるんだ!

陶磁器の焼き物をはじめまーすっていうときに、いきなりろくろに粘土テキトーに置いてもグルグルドカーンってどっかいっちゃうもんな。

こんなことがあったの、ってなんでもオットに話すの。
嬉しいことも悲しいことも、ムカつくことも。

そしたら、今回みたいにわたしがまったく見てない方向からの考え方を話してくれるのね。
もーなんでそうなの?って思ったら、違う方向から見てみる、考えてみる、思いを巡らせてみるって大事だなって。

メイクのハナシから、着地点がまさかの「いろんな方向からモノを考える」

オットとの会話ってこれがあるから、ほんと面白い。

したっけね!(*´︶`*)ノ”

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